2021年度iBIX-JAXA-KEK 物構研-QST 合同タンパク質研究会
WEB 配信によるオンライン開催といたします。
テーマ「複合体のタンパク質ユニット、基質のフォームと水溶液中のフォームの違い」

主 催:
 茨城県中性子利用研究会
 (国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)きぼう利用センター
 高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所
 (国研)量子科学技術研究開発機構(QST)量子生命科学研究所

共 催:
 中性子産業利用推進協議会
 J-PARC MLF 利用者懇談会

 開催日時:2022 年2 月16 日(水)13:00-17:05

 場 所:オンライン開催(ウェブ会議システムは後日通知)
 参 加 費:無料

開催趣旨:
 タンパク質の中には、いくつかのタンパク質ユニットから構成され、複合体を形成し、機能を発揮するものがある。これらのユニットは、独立にリボソームで合成され、foldingされた後に、正しく四次構造に組みあがり機能する。これらのユニットが組み立てられる機構、近づいてきた箇所が動き、繋がるが、その位置になぜ来るのか。抗体のようにS-S 結合で繋ながっているタンパク質において、何がS-S 結合が可能な位置に来させるのか。ユニットが決まった箇所で結合を形成する複合体で、何がその位置に来させるのか。解かれるべき問題がある。

 酵素は、基質と複合体を形成し、基質は活性化を受けて反応が促進される。その後、生じた生成物がタンパク質から離脱する。活性化できない変異体タンパク質と基質との複合体の結晶構造解析がなされている。この活性化を受けていない基質のフォームから反応機構を解き明かす試みである。水溶液中の基質は酵素上でどのような変化を受けて活性化の基質となるのだろうか。水溶液の基質のフォームと活性化を受けていない変異体タンパク質上の基質のフォームの違いは。変異体タンパク質上の活性化を受けていない基質と活性化を受けた基質との違いは、そしてその要因は。活性化を受けていない基質のフォームから活性化の基質のフォームを求めることは、今後の課題である。

 結晶化によって、生成物が結合したタンパク質の複合体の結晶構造解析がなされている。本来タンパク質から解離して水溶液中にあるはずの生成物が安定にタンパク質に付いて複合体を形成している。それを安定に結合させている理由は何であろう。

 今回の研究会では、複合体タンパク質のユニットタンパク質が組み立てられる機構、水溶液中の基質が野生型タンパク質上で活性化したフォームに変わる機構について議論する先駆けになることを望む。

研究会主査:
 今野美智子(茨城県)、吉崎泉(JAXA)、千田俊哉(KEK 物構研)、玉田太郎(QST)
(講演時間は質疑応答時間10 分を含む)

プログラム  司会 千田俊哉(KEK 物構研)
13:00 開会挨拶 今野 美智子(茨城県)

13:05-13:35 「希少糖生産関連酵素と単糖酸化還元酵素の構造解析」
吉田 裕美(香川大学)
天然に微量にしか存在しない単糖とその誘導体と定義づけられる希少糖の一つにD-allulose がある。Dalluloseには血糖値上昇の抑制効果や血管内脂蓄積の抑制効果があり、また、ノンカロリーとしての甘味料の使用など、医療・健康分野で注目されている。近年、希少糖生産酵素として多くのD-allulose 3-epimerase が報告されているが、D-fructose からD-allulose を生産することができる酵素としては希少糖研究第一人者の何森教授らによってD-tagatose 3-epimerase(D-TE)が発見された。発表ではD-TE の構造とそのユニークな基質認識を紹介する。また、宇宙実験に参加している単糖酸化還元酵素の構造解析の一部についても紹介したい。

13:35-14:25 特別講演 「KaiC 反応サイクルの複雑多様性と単純化講演」
秋山 修志 (分子科学研究所)
KaiC はシアノバクテリア概日時計システムの中核をなす時計タンパク質であり、ATPase, Kinase,Phosphatase, Substrate-level Phosphorylation Reaction 等の活性を示す非凡な酵素である。ATP やADP を基質(リン酸供給源)とする一連の生化学反応を同一酵素内で連携させつつ、概日サイクルの位相ごとに使い分ける(時間的分業)ことで、概日時計システムの周期長や温度補償能を制御している。本講演では、最新の構造・ダイナミクス解析から明らかとなったKaiC の反応サイクルについて、基質活性化機構や分子進化の視点を交えつつ紹介する。

14:25-14:55「グルコース耐性型β-グルコシダーゼTd2F2 の中性子・X 線結晶構造解析」
伏信 進矢(東京大学)矢野 直峰(茨城大学)
Td2F2 は堆肥メタゲノムより得られた好熱性のGH1 β-グルコシダーゼであり、高濃度のグルコースにも阻害を受けない。我々はTd2F2 の反応機構に関する知見を得るために、中性子とX 線の複合型結晶構造解析を行った。条件を検討して約5.5 mm3 の巨大結晶を作成し、iBIX で中性子回折データを、KEK-PF BL5AでX 線回折データをいずれも室温で測定した。中性子とX 線のデータはSTARGazer とXDS により処理し、それぞれ1.8 Å と1.19 Å 分解能の反射データセットを得た。現時点で多数のD, H 原子が中性子散乱長密度図に確認されている。今回は活性部位付近の構造情報について紹介したい。

 14:55-15:10 休憩

司会 吉崎 泉(JAXA)
15:10-15:40 「クライオ電子顕微鏡法を用いたプロテインダイナミクス研究の最前線」 守屋俊夫 (KEK 物構研)
 タンパク質などの生体高分子は立体構造が変化することにより機能するため、その解明には複数の構造状態を個別に原子分解能レベルで決定できることが望ましい。現在、クライオ電子顕微鏡法を用いた単粒子解析は原子分解能での生体高分子の構造決定が可能になり、膜タンパク質や超分子複合体等を中心にして広く用いられるようになった。本手法は、試料溶液中に含まれる数ステップに渡る平衡反応中間体などの構造状態をインシリコで分類し、個別に解析ができる可能性がある。そのため、プロテインダイナミクス解析は最も注目されている課題の一つとして様々なアプローチの研究が進行している。本発表
ではこれらのアルゴリズムを紹介したい。

15:40−16:30 特別講演 多成分酵素系SUF マシナリーによる鉄硫黄クラスターの生合成 和田 啓(宮崎大学/宮崎大学フロンティア科学総合研究センター)
 鉄硫黄クラスター(Fe-S)は、酸素に脆弱なタンパク質コファクターである。Fe-S クラスターは単純な構造だが、この生合成には大掛かりな蛋白質群を必要とする。SUF マシナリーは生物界に広く分布するFe-S クラスター合成系であり、少なくても六種のタンパク質(SufABCDSE)から構成される。これらの複合体の離合集散が分子スイッチとなり段階的に活性・機能を調節している。本講演では、単独成分や複合体の立体構造解析に加え、蛍光ラベル実験やin vivo 相補実験を駆使してこれまでに明らかにできた生合成機構について概説させて頂く。

16:30-17:00 「X 線結晶構造から見い出されたMAP2K7 の2つの分子ブレーキ」 木下誉富 (大阪府立大学)
 X線結晶構造はタンパク質機能の理解を促進する。しかし、これには結晶場ゆえのアーティファクトが含まれるため、少なくとも生化学実験による検証が必要となる。本講演では、宇宙実験を経て得たX 線結晶構造から見いだされた、MAP2K7 キナーゼの分子内及び分子間で作用する分子ブレーキについて紹介する。
分子内ブレーキはCys218 とP-loop との相互作用によりATP 結合部位が極端に狭くなること、分子間ブレーキはC 末端が隣接分子と相互作用して分子運動を制限することで作動すると示唆された。生化学実験などにより確かめられた、これらの自己阻害機構を基に新規機序のMAP2K7 阻害薬の創出が期待される。

17:00 閉会挨拶 玉田 太郎(QST)

<参加申込み先>
 参加を希望される方は下記申込フォームから2 月9 日(水)までにお申し込みください。
 定員になり次第、締め切ることがあります。

申込フォーム

 上記フォームより申込みできない場合は、(1)名前、(2)所属、(3)メールアドレスをご記入の上、事務局までお申込みください。
 茨城県中性子利用研究会事務局 田中志穂(tanaka@ibaraki-neutrons.jp

 接続情報、配付資料につきましては開催前に参加者へお知らせします。